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らぶあど encore!
第32章 言葉に出来ない



 史がペンを拾い上げて渡すと景子は微かに笑い「ありがと……」と言う。

 その悲しげな表情を直視することが出来ない史は視線を白い床に落としたまま「お、おう」とぶっきらぼうに答えた。

 景子は落ち着くためだろうか、何度か深く息を吸って吐いてを繰り返し、時折思案しながらペンを紙に走らせる。

 いくつかの項目を書いてから、困ったように景子は呟いた。



「……いつ頃からこの症状が始まったか……どんな症状か……ようちゃんと一緒に暮らして居ないから……全部は分からないわ……」




 景子の頭の中に実家の両親の顔が浮かび、目を見開く。



「……史……ちょっと電話してくるから……」

「ああ……だ、大丈夫か」



 史は咄嗟にそう言ったが、直ぐに後悔する。大丈夫なわけがないのに、何を言っているのか――と。

 景子は青い顔色のまま笑い、か細い声で「ありがと、史」と言って自動ドアの向こうへと消えた。


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