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らぶあど encore!
第34章 祈り
あぐりの脳裏に先程の景子の泣きそうな大きな瞳が蘇り、振り払うように頭を振った。
見知らぬ男と抱き合う景子を見た時、直ぐに悪い方へ解釈してしまった自分を恥じた――彼はきっと景子のごく近い親族なのかも知れない。息子が急病で気が動転して、思わず身内にすがるという事なら充分にあり得る事ではないか――と。だが、二人の醸し出す雰囲気はあまりにもそれとはかけ離れていた。そういった事に敏感なあぐりは、理屈ではなく直感で彼らのただならぬ関係を察した。
だが、心の底ではまだ景子を悪く思いたくないという気持ちが働いていた。友達だからおかしな風に勘繰ってはいけない――いや、そもそも友達と言っても、景子の事を何も知らないのだ。分かっているのは景子がクレッシェンドの新しいマネージャーだと言うこと、小さな息子がいて、実の母と仲が良くなくて、息子と離れて暮らしているという事だけだ。
他は、ラインで他愛ないお喋りをしたが、それだけだ。景子の個人的な事情を彼女の口から聞いたことなどない。あぐりは待っていたのだ。景子の方から話してくれるのを。