この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
らぶあど encore!
第34章 祈り
景子が何か大きな重い事情を持っている事をあぐりもほなみも察していた。彼女の気の強い端正な美しさな中には触れたら一瞬で崩れそうな脆さが垣間見えていた。亮介にさえも打ち明けられていないという事も知っていた。どっちが先でもいい。誰かに話してくれれば――何か出来る事がある、とまではいかないかも知れないけれど、心の重荷を少しでも軽く出来るかも知れない――と、思って見守っていたつもりだった。
寄り添う二人を見て烈しく心を揺らしながら亮介の病室に向かう途中、前を無言で歩いていたカナがいつになく険しい顔で振り向き言った。
『実は……黙っていようかと思ったんですけど』
『……なに?』
過る不吉な予感に、正直あぐりはその場から逃げ出したくなったが、そういうわけにもいかない。
病室の途中にあるナースステーションの前で声をひそめてカナ続けた。
『前から思ってたんですけど……岸会長って結構アバウトというか……細かいことを気にしないんですよね』
岸会長、つまり智也の父の話が一体何の関係があるのだろう、とあぐりは眉を寄せるが、カナの発した次の言葉に凍り付いてしまうことになる。
『北森景子、あの人、どうやら身元を偽ってるっぽいですよ』