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ノベルラブ
第8章 蒼井君のターン
視線がPCに向く。
開いて電源を入れるけどパスワードがわからなくて結局閉じる。
あきらめて、音を立てないように寝室に戻り、そーっとまたスミレさんの隣に収まった。

このベッドで、小説に書かれたうようなことを「あの人」はスミレさんにしたんだろうか?
スミレさんの寝顔を見ていると、ぎゅっと胸の奥が痛んだ。


スミレさんの小説に書かれている男のモデルに思い当たったのは、その男の『余裕ある態度』に『大抵の女の子はフラフラと絡め取られてしまう』という描写が「あの人」にそっくりだったからだ。

「あの人」…うちの店のオーナー、渋谷俊二。

バイトに入りたての頃、先輩たちによく聞かされた話だ。
皆が皆、「内緒だよ?」と言いながらクスクス笑いで教えてくれた公然の秘密。

「オーナーと副店、不倫してるんだよ」
「オーナーとスミレさんがキッチンでヤッてるの見ちゃった」
「このあいだオーナーの奥さんが来た時、副店の方怖くて見れなかったよ~」

最初の頃はふぅん、ありがちな話だね~としか思わなかったけど、働くうちに皆よくそんなことを面白がって言えるな、と思い始めた。

スミレさんは本当にしっかり者で仕事できて、面倒見良くて、話も面白いし、なによりすごい働き者だ。
でもそれを感じさせないで、その場をいつも楽しい雰囲気にして、疲れた顔だってしないし、本当に大人だ。俺はむちゃくちゃ尊敬する。
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