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やらし恥ずかし夏休みバイト
第5章 マジシャンの助手
「どうか、あさっての午前中まで、私共にお力を貸していただけないでしょうか? このままキャンセルということになりますと、我々はキャンセル手続きのあと、日本にとんぼ返りする形となるでしょう。ところが、キャンセル料の請求が後にございまして、当社にとっては相当な痛手となってしまします。また、このようなドタキャンを一度でもしてしまいますと、次回以降はもしかしたら呼んでいただけないかもしれません。今も病院のベッドでリハビリ中の妻はきっと、『私が怪我をしなければ。私のせいだ』と自分を責めるでしょう。それに、すでに会場付近の宿泊施設にご滞在中の、私共のファンの方々も、きっと悲しまれると思います。そして、私共も本当に忸怩(じくじ)たる思いで……悲しくて、つらくて、どうしようもございません。なので、お願いでございます……。どうか、私共をこの窮地から救っていただけないでしょうか? 我々を救うことができるのは、マドモアゼル朱里ただお一人なのですよ……」
 さらにうつむくポロリに、朱里も切ない気持ちになった。
 朱里の目じりには、うっすらと涙の玉すら浮かんでいる。
 もはや、朱里の心は決まっていた。
 手助けしたい、自分がやるしかない……と。
 それに、「練習とリハを含めても、勤務しないといけない時間は実質3時間以内」ということも、朱里の決心を後押しした。
 その時間さえ耐え抜けば、ポロリたちの力になることができるし、自身も高額の給与を受け取れるわけだ。
 また、「今回は1回限りの契約なので、これまでの高時給バイトとは違い、後腐れなく終われる」ということも、朱里にとっては大きかった。
 朱里は大きく息を吸い込むと、声を励まして言う。
「突然辞めたいなどと言い出して、すみませんでした。私、やっぱりやります! やらせてください!」
「あなたなら、そう言ってくださると信じておりましたよ、マドモアゼル朱里!」
 涙ぐみながら宣言した朱里の両手を、こちらも感無量の表情で掴むポロリ。
 謎の感動シーンである。


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