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あい、見えます。
第9章 あい、見えます。
きっとね、と笑った唇に、何かが触れた。
甘い感触のこれは、佐々木の唇だ。
心地よさに唇を薄く開くと、舌先が触れて―――。
ヴヴヴヴヴヴヴヴ――――――。
不意に室内に響いた低いバイブ音に、二人の動きが止まる。
「……あ、私かも」
ごめんなさい、と謝る遥に、佐々木は「いいえ」と優しく告げると、ベッドを降りて、部屋のローテーブルに置かれた遥の服を見た。
確かに、畳まれた遥の服の上で、携帯の液晶が光って震えている。
「電話……みたいですね。出ますか?」
「何番、だろ…」
「何番?」
二つ折りのそれを開くと、ディズプレイには『2番』と書いてある。
名前の代わりに、番号で登録しているらしい。
「2番、と書いてありますね。……どうします?」
「あ、……ごめんなさい。すぐ、済むと思うので」
「大丈夫ですよ。……あぁ、身体は無理に起こさないで」
携帯を手渡そうとした佐々木は、上体を起こしかけた遥に、慌てて歩み寄った。
遥の身体を気遣って、腰の後ろに枕を置くと、毛布を腰の辺りまでかけ直してくれる。
その手に力がこもり、図らずも通話ボタンが押されてしまった。
「ぁ……」
慌てて遥に渡そうとしたが、携帯は、佐々木の手の中で、急にやかましく喋り始める。
『遥? 遥? 私! 薫! ごめん…、何か、私が勝手に手帳なんて押し付けたから、悩ませたよね? ほんっと、ごめん! っていうか、あ、違ったらゴメンね。もし、病気とかなら、すぐ言って! ちゃんとお見舞いも行くし。ねぇ、聞いてる?!』
息つく暇もなく、矢継ぎ早に話しかける薫の声に、佐々木も面食らって動きを止めた。
その手に、遥の細く白い指が伸ばされる。
手首にぶつかった指で携帯を探り当てると、彼女は佐々木を見て微笑んだ。
「ほらね。私、見えます。……今、薫が必死な顔してるのも」
小さく密かに笑ってから、遥は受け取った携帯を耳に当てて、口を開いた。