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あい、見えます。
第10章 見える世界
だが、次の瞬間、遥はグイと肩を引き寄せられて、思わず佐々木に寄りかかった。



「……えっ!?」

「ったぁ……!」

「おい、美月!」



エレベータが開いた途端、つんのめった女性が遥にぶつかりかけて、慌てて佐々木が肩を抱き寄せたのだ。

女性も遥も無事なようだが、女性の脚にぶつかった白杖は、驚いた遥の手から離れ、エレベータに転がっている。

驚く客同士を落ち着けるように、ホール側から黒服のウェイターが穏やかに声をかける。



「お客様。大丈夫ですか?」

「あ、すいません。……ほら、美月」



ウェイターの声に謝罪しつつ、女性に何か促す男の声が響く。

若い男だ。

恐らく、美月という女性の恋人だろう。



「んー。ちょっと、つまづいたの。……あ、ごめんね。こーれ。はい、貴方の傘、ちゃーんと握ってね」



甘ったるい声と共に手に触れた感覚に、白杖の取っ手を握り直す。

「傘じゃないんだけど…」と言うよりも先に、”美月”と呼ばれた女性が、甘い香りを漂わせながらエレベータに乗り込む。

歩く振動が重なって、男の声が、彼女を追いかけるように箱の中へ移動した。



「だから、飲み過ぎだって言ったんだよ。―――本当、すみません。大丈夫でしたか?」

「えぇ、大丈夫です。遥?」



佐々木に声をかけられて、遥は白杖を軽く動かした。

曲がっていないはずだ。

微笑んで頷けば、ほっとした声で、男が再度、謝った。



「すみませんでした。それじゃ、良い夜を」



エレベータを降りると、閉じていく扉から「酔ってないってば」と拗ねる女性の声が聞こえた。

どうも、少し飲み過ぎてしまった、楽しそうなカップルの退場だったらしい。

思わず笑ってしまったところで、背後から声がかかった。




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