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あい、見えます。
第1章 見つめ合って
愛していた。
朗らかに微笑む笑顔も、我慢強く涙を堪える姿も、動物に優しい繊細な感性も、彼女の全てを、心の底から大事にしたいと思っていた。

だから、彼女を失った時は、その事実を受け入れられなかった。
現実から逃避しようと、毎週末、バーに入り浸って酒を飲んではくだをまいた。
学生時代とは異なる濃度の恋愛は、失った時の衝撃も大きかった。

会社の人間には内密にしていた関係だったので、総務の女性社員が事故で他界した、という事実と、自分の暗い顔を結びつける同僚は居なかったように記憶している。
ただ、毎日、大きなフロアの中で、もう居ない彼女の姿を探し続けて、仕事に没頭して忘れようと試みて、それでも聞こえるはずの無い彼女の声を待つ自分に疲れ果てた。

7年間、働いた会社を辞めたのは、そんな理由だった。

幸い、退職金も出たし、彼女との結婚のために貯蓄もしていた。
収入が無くなって、即座に生活に困ることは無かった。

暫く、何もかも横において休もう。
そんなことを思いながら、毎夜、バーに通って酒を飲んだ。
酒が飲みたかったわけじゃなかった。
酔い潰れたかっただけだった。
その頃の自分は、1日の必要エネルギーをアルコールでまかなっていたように思う。

とにかく毎晩、酒に溺れて潰れていたら、店のマスターが、見かねて声をかけてきた。
酔った勢いで、自分が若い頃にバーテンダーをかじったと話したのを、覚えていたらしい。
今思えば、実際は、面倒な客を何とかしたかったのかもしれない。
だが、何にせよ、それが、バーテンダーになる、キッカケだった。





(……)

ソファから立ち上がった佐々木は、寝室に移動して鞄から手帳を取り出した。
中を開きながらソファに戻ると、腰を下ろして、挟んであった写真を眺める。
やや色あせた写真には、動物園のサル山の前で笑う、二人の姿が写っていた。

暫く写真を眺めてから、穏やかな笑みを浮かべると、彼は写真をガラス製のテーブルに滑らせ、その手でペンを握り、手帳を開いた。





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