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あい、見えます。
第2章 見守って
■見守って
人間というのは案外、単純なもので。
誰かを気にし始めれば、些細な動きにさえ敏感に反応するようになる。
佐々木が、初めて隣人と会話を交わしてから、1ヶ月が経った。
蝉の音がうるさく、アスファルトから立ち上る熱は歩みを進めるごとに体を炙り、まとわりついてくる。
それでも、彼は前方を歩く彼女の背中を、ある一定の距離を保ちながら追いかけていた。
あれから1ヶ月間。
佐々木は、休みの日に、早めに起床して隣の物音に耳を傾けるようになった。
決して、意図的に起床していたわけでは無い。
ただ、隣室のドアが開く微かな開閉音、鍵をかける施錠音、自宅の前を人が通り過ぎていく足音、そのいずれかに、必ず耳が反応し、覚醒する日が続いたのだ。
疲れのせいで身体を起こせない日もあったが、シフト休みの火曜と木曜、彼は、ほぼ毎日、彼女の出かける音で目を覚ますようになり、数回、そんな日が続けば、流石に苦笑を漏らした。
(気になっているわけだ)
僅かな時間、部屋の前で会話を交わしただけの隣人が、どうにも気にかかっているらしい。
思考するよりも先に、体の正直な反応が、その事実を佐々木に如実に伝えていた。
そして、自分の感覚を認めればこそ、もう一歩、踏み込んだ謎を解きたくなる。
彼女が、どんな人物で、
毎朝9時に何処へ出かけているのか。
そして、何を、しているのか。