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あい、見えます。
第1章 見つめ合って
いつも3時前に帰宅している佐々木が、今夜遅くなったのには訳があった。

Jazz Bar『Dance』は今日も、深夜1時に穏やかな閉店を迎えた。
だが、クローズ後、着替え終わった佐々木が、愛車カローラの鍵を手の中で遊ばせながらホールに戻ると、未だにバーテン服のままの庵原が「30分だけ」と佐々木を引き止めたのだ。

バーテンダーとして、『Dance』に来てから4年になる庵原は、今でも時折、先輩である佐々木にチェックを頼むことがある。

眺めの金髪を後ろで縛った彼の姿は、ぱっと見た限り、努力を好むようには見えない、どこか遊び人にも見える華やかな印象を与えるが、佐々木は、その見た目と中身の違いを良く知る人物の一人だった。

「30分な」という佐々木の言葉に「すいません」と頭を下げると、庵原は佐々木がスツールに腰をおろしたのを確認してから、ティン(銀色の大きなステンレス製のグラス)を2つ手にし、ボトルと共に宙へと舞わせていく。

グラスとボトルを自分の肘でバウンドさせながら、時には肩口で受け止めつつ、彼は流れるような動きでカクテルを作った。一瞬ティンでボトルを受け止めると、そのラベルにキスをしつつ、浮かせたボトルを後ろ手に受け止め、自分の腕を転がしてから受け止める。
グラスに氷を入れて出来上がったカクテルをティンからグラスに移せば、バースプーンでステアリングしてから黒いストローを挿して、佐々木の前にすっと押し出した。

相変わらず危なげない動きでカクテルを作る彼は、それでも、佐々木が出来上がりをチェックする様子を、表情の伺いにくい細い瞳で見詰めている。

同じバーテンダーとして、日頃から自分のテクニックを磨こうと意識している後輩がいることは、佐々木にも刺激になっていた。
ストローで僅かに舐めるように味を確認したあと、グラスからも一口、味を見れば、佐々木は微笑みながらグラスを庵原の方へ戻してやる。


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