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あい、見えます。
第3章 見つけ出して
* * *
吹き抜けから入る光が急に萎み、天気の急変を心配した佐々木は、閉館まで待たずに帰宅することにした。
やや湿り気を帯びた風を感じながら、帰り道で、薫の言葉を思い出す。
―――彼女、どうしても自分から人に関わりに行こうとしなくて。
―――仕事はネット納品できる仕事だから、引っ越しは、私が勧めたんです。
―――こっちの空気を感じたら、少しは違うかなって思ったけど…。
心が引きこもってしまっているように感じる、という薫の言葉は、佐々木にも納得できた。
出逢った時の彼女の態度は、確かに積極的なタイプとはかけ離れて感じられた。
けれど、それは、彼女だけの問題では無いようにも、思えた。
自分も含め、最近は、誰もが、心が引きこもりがちなんじゃないだろうか。
バーでも、男女が口説き合う姿を見かけないようになったし、まして、昔の自分のように恋愛沙汰で泥酔しに来る客も滅多にいない。
きちんと大人の飲み方をして、スマートに酒を楽しみに来る客が多い。
アルコールを扱う環境だというのに、だ。
もちろん、厄介な客がいないことは歓迎すべきことだが、深く懐に入り込む付き合いをしない人間が増えているような、そんな印象はある。
(まぁ、俺も、同じなんだろうな)
自宅のドアまでたどり着き、鍵を回しながら、佐々木は無言で己を省みた。
国崎と話をしなくなって、久しい。
同じ職場の人間とさえ、休みが噛み合わないせいで、ゆっくり会話をすることも無くなっていた。
互いのことを深く知るよりも、日々の生活サイクルを単調に回すことに満足して、そのことに疑問も抱いていなかった。
けれど、そんな自分を振り返るキッカケが、あの日の夜、不意に訪れた。