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あい、見えます。
第3章 見つけ出して
「ただいま」

誰もいない室内に、帰宅の声をかけてみて、仕事以外に、すっかり人と会話をしていなかったことを思い出す。
居間のソファに腰を降ろすと、胸ポケットから手帳を取り出しながら、佐々木は、テーブルに置きっぱなしの写真を見た。
懐かしい写真を暫く見つめてから、手帳をテーブルに置くと、その手で写真を取り、佐々木は立ち上がった。

不意に、外から微かに隣室のドアが開く音が聞こえた。
彼女も早めに帰ってきたらしい。

写真を寝室の棚に置きに行くと、開いたカーテンの向こうで、暗くなった空が一瞬光るのが見えた。

夏の終わりを急かすように、夕立が降り始める。
一気に雨脚を強める音を聞きながら、佐々木は窓辺に近寄り、ベランダ越しに見える家々の屋根を眺めた。
何もかもを洗い流すように、一気呵成に雨が降り落ちている。あまりの勢いで、そこかしこの屋根が白く靄をまとって見えた。

自然の煙幕のような、その景色を黙って眺めながら、佐々木は窓を開けてみた。
聞こえる雨音が一段と大きくなり、部屋の中に湿度をまとった空気が入り込んでくる。
いつもだったら不快に感じるだろう、じっとりとした気配も、どこか佐々木には新鮮に感じられた。

彼女に出会ったから、自分は窓を閉めていたことに気付けた。
彼女に出会ったから、自分は窓を開けようと踏み出すことが出来た。

懐かしい思い出を手帳から引き抜いて、新しい予感を胸に挟むと、天気とは裏腹に、不思議と気分は晴れた。
やはり、この豪雨は通り雨のようだ。
空の奥が明るく晴れている。

狐の嫁入りが終わろうとする気配に微笑むと、佐々木は開けていた窓を、静かに締めた。
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