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あい、見えます。
第3章 見つけ出して
* * *
「それって、恋じゃなかったら何って呼ぶわけ?」
楽しそうに話を聞いていた国崎が、カウンターに肘をつくと、その手で傾けた頬を支えつつ、のんびり佐々木を眺めて尋ねた。
反対の手に飴色の液体の入ったロックグラスを持ち、長い足を組んでいる姿は、バーテンダーをしている時の折り目正しい彼とは、随分かけはなれた雰囲気だ。
だが、佐々木は特に気にする様子も無く、問いの答えを探すように、視線をゆるりと宙に彷徨わせる。
「何だろうな…、庇護欲、とかか?」
「っははは。晋さん、確かに親鳥みたいなところ、あるもんなー。頼られるタイプっていうか、包容力があるっていうか」
「そうか? それを言ったら、お前も似たようなもんだろ」
「いやー。俺はチーフっていう役職に合わせてるだけだよ。実際、仕事を離れたら、こんなにダラダラしてるし」
組んだ足先を揺らして、ほんのりとした酩酊状態を楽しみながらグラスを口に運ぶ国崎の姿に、佐々木は反論せずに苦笑するだけに留めた。
自分達のバーのホームページを更新したり、内装の刷新を考慮したり、メニューの変更を提案したり、国崎が文句も言わずに行っている仕事の端々を知っているからこそ、彼の言葉が"適当を装うフェイク"だと分かっている。
それでも、彼が、そう在りたいというならば、自分が口を差し挟むことでも無いと思ったのだ。
「にしても」
ふと、国崎の声が真剣味を帯びた気がして、佐々木は横目で彼を伺う。
「晋さんらしいよね。お隣さんっていうのは」
客の前では見せない、憂いの混じった微笑みで、国崎はカウンター越しに並んだボトルの辺りを眺めていた。
この男も色恋沙汰で悩んでいるのだろうか、そう思った佐々木だが、切り込むには、まだアルコールが足りないような気がして、グラスの中身を喉に流し込んでから、小さく息を吐く。喉を撫でるアルコールの熱さに目を細めながら、出逢った時の彼女を思い出した。
「俺らしいってのは、どういう意味だよ」
黒髪繋がりとかか?
笑い混じりに続けながら、佐々木は片手を上げてバーテンダーを呼ぶと、国崎のグラスを指差して「同じのを」と追加を頼む。