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あい、見えます。
第3章 見つけ出して
バーテンダーが佐々木のオーダーに一つ頷く姿を眺めながら、国崎はグラスの中身を舐めるように味わってから笑った。

「黒髪繋がりって。そんなんで恋に落ちるなら、店の客、毎晩口説かなきゃなんないじゃん」

そうじゃなくて、と国崎がグラスをコースターに置く。

「それこそ、店の客…じゃないけど、晋さんは職場で恋愛するタイプじゃないと思うからさ。店の客を口説く姿も想像つかないし、仕事仲間だからって詩織を口説くようにも見えないし。仕事は仕事って区切ってるタイプだと、俺は思ってる」

違う?と顔を覗きこまれて、なるほど、と佐々木は顎を撫でた。
自分達の職場であるバー『Dance』は、確かに毎晩、着飾った女性客もやってくるし、そのバーでピアノの生演奏を披露するピアニスト、佐倉詩織も恋人は居なかったはずだ。
だが、あのカウンターに立ってから、佐々木は一度だって客の女性を口説こうと思ったことは無いし、詩織に至っては仕事仲間であり、妹や家族のような存在だ。

「それで、”俺らしい”か…」
「だろ? 晋さんが恋をするなら、バーとは無関係の場所だろうって思ったし。ご近所さんって言われたら、何か"らしい"っていうか、"お似合い"って感じた」
「なんだ、その言い方は。お似合いって、見てもいないのに当て推量で言うなよ」

自分のコースターにグラスを置くバーテンダーに軽く頭を下げながら、佐々木は国崎に言い返す。

「だとしても…、どうしたらいいか分からなくて、年甲斐も無く迷ってる」
「迷う? 晋さんが?」
「そりゃ、俺だって迷う」

年甲斐も無い、というよりも、年をとって経験がある分、動けなくなっているのかもしれない。
しかも相手は自分より一回り以上も下だ。
目が見えていないのだから、急に距離をつめようとしても怖がられるだけかもしれない。

「んー…。まぁ、晋さんの話を聞く限り、その子、初恋もまだかもしんないしなぁ」
「だろ?」
「そこは、晋さんの"庇護欲"で」
「おい」
「っははは、冗談」

睨みつければ、国崎は肩を竦めて、朗らかな笑い声をバーに響かせた。
その声が、店内のジャズに混ざり、人の少ないバーの空気が、ふわりと和らぐ。

仕事終わりに訪れた、このバーは、二人が働く店から少し歩いたところにある、朝5時まで営業している店だった。
『Dance』と同じように店内にはJAZZが流れている。
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