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あい、見えます。
第1章 見つめ合って
そんなやりとりをしてから帰宅すると、マンションの4階についた佐々木の目は、隣の部屋―――、つまり廊下一番奥の角部屋の玄関に、女が立っているのを捉えたのだ。
その姿に、普段動じることの少ない佐々木でさえも、一瞬、面食らって立ち止まった。
長い黒髪に白いワンピースの後ろ姿は、初夏の汗ばむ夜、まるで暗がりに佇む幽霊の姿に見えた。
自分の妄想に、思わず軽く笑みを零してから、佐々木は静かに自宅への廊下を進んだ。
隣の部屋の住人だろうか。
日頃、世間一般の生活と離れた時間軸で生活しているせいで、佐々木は隣の住人に出会ったことが無い。
半袖から覗く腕は細く、顔立ちははっきり見えないが、恐らく20代前半くらいの、若い女性のようだ。
鞄の中を確認しているらしく、彼女は、お腹の前で抱えた肩掛けカバンの中身を右手であさっていた。だが、その動きは、不意にピタリと止まり、そっと顔を上げ、佐々木の方へ顔を向けてきた。
まるでスローモーションのように、佐々木の動きが自宅ドア前で止まり、その左手がドアノブにかかったところで、視線がぶつかって、佐々木は動きを止めていた。
美しく澄んだ黒い瞳が、微かな不安を帯びて、自分の顔をじっと見つめていた。
"美少女"という単語を当てはめても過言では無い、美しい顔立ちの彼女は、だが、佐々木を見つめても何も言わず、ただ人形のように固まっていた。
仕方なく口を開いた佐々木は、少し考えたあげく、「こんばんは。お休みなさい」と、なんとも間の抜けた挨拶をしてから自宅へ入ったのだった。
その姿に、普段動じることの少ない佐々木でさえも、一瞬、面食らって立ち止まった。
長い黒髪に白いワンピースの後ろ姿は、初夏の汗ばむ夜、まるで暗がりに佇む幽霊の姿に見えた。
自分の妄想に、思わず軽く笑みを零してから、佐々木は静かに自宅への廊下を進んだ。
隣の部屋の住人だろうか。
日頃、世間一般の生活と離れた時間軸で生活しているせいで、佐々木は隣の住人に出会ったことが無い。
半袖から覗く腕は細く、顔立ちははっきり見えないが、恐らく20代前半くらいの、若い女性のようだ。
鞄の中を確認しているらしく、彼女は、お腹の前で抱えた肩掛けカバンの中身を右手であさっていた。だが、その動きは、不意にピタリと止まり、そっと顔を上げ、佐々木の方へ顔を向けてきた。
まるでスローモーションのように、佐々木の動きが自宅ドア前で止まり、その左手がドアノブにかかったところで、視線がぶつかって、佐々木は動きを止めていた。
美しく澄んだ黒い瞳が、微かな不安を帯びて、自分の顔をじっと見つめていた。
"美少女"という単語を当てはめても過言では無い、美しい顔立ちの彼女は、だが、佐々木を見つめても何も言わず、ただ人形のように固まっていた。
仕方なく口を開いた佐々木は、少し考えたあげく、「こんばんは。お休みなさい」と、なんとも間の抜けた挨拶をしてから自宅へ入ったのだった。