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あい、見えます。
第4章 見落とさないで
* * *
マンションの自室で、イヤホンを耳にしたまま、遥は目を閉じていた。
昼間、打ち込んだ文章を専用ソフトで音声化しながら、言葉を確認していく。
怪しい場所で、時折キーボードを操作しながら、校正に集中していると、不意に”ポン”と高い合図音が耳に分け入ってくる。
これは、メールの受信音だ。
「……」
無意識に詰めていた息を吐いて、目を開けながらパソコンを操作すると、メールソフトを起動して、誰からのメールか確認する。
『ゴゴ11ジ53フン アオキ カオル ヨリ』
機械音を聞いて、メールを読むより前に、時間に驚く。
(もう、そんな時間?)
手探りでベッド上のピラミッド型の時計を引き寄せると、てっぺんのボタンを押して再度、時間を確認する。
その時計も、パソコンと同じ時刻を喋ってきたことに溜息をつくと、遥は手早くパソコンの電源を落として服を着替えだした。
薫には申し訳ないが、明日、図書館で会えるのだから、その時に話せば大丈夫だろう。
そもそも、こんな時間に自分がメールをチェックしないことは、長いつきあいの彼女はわかっているはずだ。
多分、明日、何か話したいことがあって、そのネタの動画音声でも送ってくれたのだろう。
彼女のオススメの音声は、余り遥の感性にヒットすることは無いけれど、それでも、何か楽しいものを見つけた時の薫のテンションは、遥は好きだった。
(前なんて、猫の鳴き声が可愛いからって、えんえん猫の鳴き声を聞かされたっけ)
パジャマのボタンを留めながら、以前メール添付されていた音声データを思い出し、遥は小さく笑った。
(それから、イケメンボイス集、とかね)
一時期は、「この声だけで夢見が良くなる!」と、オススメの男性声優の喋りを凝縮したデータをもらったこともあった。