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あい、見えます。
第4章 見落とさないで
立ち上がってテーブルを横にどけると、まだ開ききれていないダンボールの場所を片手で確認しながら、キッチンへ行き、いつもの場所の歯ブラシを手にとる。
歯を磨きながら、その規則正しい音に、ぼんやりと、その時の”薫おすすめのイケメンボイス”を思い出そうとした。
確か、「おやすみ」とか、「いい夢を」とか、そんな単純で他愛もない台詞ばかりだった気がする。
(あぁいう台詞って、相手がいないところで収録するの、どんな気分なんだろ)
恥ずかしくないのだろうか。
それとも、自分にとって大事な誰かのことでも考えながら語りかけているのだろうか。
そんなことを考えながら、口をゆすぎ、歯ブラシを"いつもの場所"に戻す。
壁にかけてあるタオルで、手と口を拭いてから、そのまま、なんとなく「お休みなさい」と呟いてみる。
もちろん、誰の返事も聞こえてくるはずが無い。
「……ホームシックかな」
笑って呟くと、遥はベッドに移動して布団の中に身体を包み込んだ。
目を閉じて、静かに深呼吸すると、不意に脳裏に、音の記憶が蘇った。
―――お休みなさい。
(あれ)
思い出した声は、”薫のオススメ声”じゃなかった気がする。
(誰、だっけ)
考えようとする傍から、一日の疲れが身体中に広がっていき、思考力を奪っていく。
結局、誰の声を思い出したのかも分からないまま、
そして誰かの声を思い出したこともまどろみの中で忘れてしまったまま、
遥は穏やかな眠りに落ちて、その日を終えていた。
歯を磨きながら、その規則正しい音に、ぼんやりと、その時の”薫おすすめのイケメンボイス”を思い出そうとした。
確か、「おやすみ」とか、「いい夢を」とか、そんな単純で他愛もない台詞ばかりだった気がする。
(あぁいう台詞って、相手がいないところで収録するの、どんな気分なんだろ)
恥ずかしくないのだろうか。
それとも、自分にとって大事な誰かのことでも考えながら語りかけているのだろうか。
そんなことを考えながら、口をゆすぎ、歯ブラシを"いつもの場所"に戻す。
壁にかけてあるタオルで、手と口を拭いてから、そのまま、なんとなく「お休みなさい」と呟いてみる。
もちろん、誰の返事も聞こえてくるはずが無い。
「……ホームシックかな」
笑って呟くと、遥はベッドに移動して布団の中に身体を包み込んだ。
目を閉じて、静かに深呼吸すると、不意に脳裏に、音の記憶が蘇った。
―――お休みなさい。
(あれ)
思い出した声は、”薫のオススメ声”じゃなかった気がする。
(誰、だっけ)
考えようとする傍から、一日の疲れが身体中に広がっていき、思考力を奪っていく。
結局、誰の声を思い出したのかも分からないまま、
そして誰かの声を思い出したこともまどろみの中で忘れてしまったまま、
遥は穏やかな眠りに落ちて、その日を終えていた。