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あい、見えます。
第5章 見えなくても



『宮本遥。24歳。香川から』



その言葉に、遥は思わず自分の身体を両腕で包み込んだ。

反射的に身体が引けて、何故か誰もいないはずの自室の音を探ってしまう。

隣の男は、自分のことを、知っている。

(まさか……)

今も、気配を消して、実は、この部屋にいるんじゃないか。

そんなはずは無いのに、不安で耳をそばだてた遥の鼓膜に、思いもよらない薫の声が響く。



『青木薫さんに教えてもらう』



「うそ…」



『図書館で仕事。全盲。パソコンを使う』
『突然の涙。駆け寄りかけた』
『泣いても、仕事を行う。プロ意識』
『親友の優しさ』



いつの間にか、両手がするりと滑り落ちて、両方の肘を掴みながら、薫の声に耳を傾けていた。

自分のことを知られた恐怖感と、涙を見られた恥ずかしさ、色々なものが渦巻いて、自然と俯いてしまう。

頬をかすめる髪の音に混じって、またペーパーノイズが聞こえた。



『国崎と飲む』
『恋。ウェーブ。波』
『庇護欲』
『”WAVE”の歌詞、確認する』
『波にまかせて進む』
『怖がらせたくない。迷惑はかけない』



分からない単語が少し出てきたけれど、遥は項垂れたまま、パソコンの自動再生に任せていた。



『図書館。定位置。仕事』
『イヤホンをはめる動きが可愛らしい』
『邪魔はしない』
『また何かの偶然が来れば、その波に乗ればいい』
『いつか、信じてもらえる時も来る』



「……」



何枚かページを捲る音が聞こえる。
さっきまで、1ページずつだったのに、後ろの方のページへ移動したらしい。

(何?)

不安の中に滲む、微かな好奇心が、遥の顔をあげさせた。
真っ暗な部屋の中、ディスプレイの明かりが、彼女の美しい顔を青白く照らしだす。



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