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あい、見えます。
第5章 見えなくても
目当てのページが見つかったらしく、薫の動きが止まり、一拍の間の後、再び、彼女の声が室内に流れだした。





『宮本遥さん。黒髪の女性』
『瞳が美しい』
『好きになったのは、初めて出逢った時からかもしれない。もしかすると、仕事をしている姿を見た時かもしれない。泣いている顔を見てしまった時かもしれない』

『全盲の人は、まだまだ生きにくい世の中だ』
『手助けがしたい』

『白杖を掲げている時は、SOSのサイン』
『突然、腕を掴まれると、目が見えない人は驚く。声をかけてから、そっと触れる』
『目が見えなくても、料理は出来る。日常生活もおくることが出来る。不便だが、不自由ではない』

『支えたいと思う。けれど、押し付けたくは無い』
『彼女の人生は彼女のものだから、悩ませたり悲しませたりしないように』

『波が来た時に、きちんと乗れるように、今は見守っていければ構わない』





パタン…と、手帳を閉じる音が聞こえて、無意識に遥は瞳を瞬かせた。

(なに、これ……)





『……これで、終わり。ねぇ、遥。あのね……、あの、……ごめんね、勝手に名前、教えちゃって。でもね、この手帳の持ち主、遥の隣の部屋に住んでる人で…、佐々木さんって言うんだけど、……多分、悪い人じゃないと、思うの』





身動きできずに眉を寄せる遥をよそに、音声データは勝手に再生されて、薫の声を彼女に届けていく。





『この人……、うちの図書館に来てから、ずっと”盲目”に関する本を借りたり、してて……。あー、そうじゃなくて……。ただ、あのね? ちょっと話をするくらいなら、……いいんじゃないかって思って。どうかな?』





薫の声を聞きながら、遥は反射的に緩く首を振っていた。

その頬に、いつの間にか溢れた涙が、一筋の線を描く。

上手く言葉が見つからず、胸の中のもどかしい想いが、どんどん苦しくなっていく。





『嫌ならいいの。そしたら、この手帳は、お隣さんのポストに、私が入れることだって、できるし。でも、遥が渡して上げた方が、佐々木さんも嬉しいかなって。……ね? ご近所付き合いだって、……ちょっとは必要でしょ?』





その声に、遥が小さく肩を震わせた。






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