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あい、見えます。
第5章 見えなくても
「何、言って……」
涙声で呟く遥を無視して、音声データは淡々と薫の声を再生していく。
『この人の手帳、拾ったの、遥だったんだよね? 私も、……開いてみて、ちょっと驚いたんだけど、もし良かったら、お隣さんに返すの、考えてみて? ほんと、……ごめんね、色々と勝手に話しちゃって。本当に、ごめんね、遥。また、明日、話すから』
プツッという停止音に、遥は暫く動けないまま肩を震わせていた。
自分に気付かれないように尾行したり、自分のことを嗅ぎまわったり、挙句、話もしてないのに、好きと言い出すなんて、完全にストーカーと同じにしか見えない。
そんな男に、自分の一番の親友が協力していたことにも驚いたし、怖くもなった。
毎日、家を出る時間を知られて、図書館にいることも知られているなんて。
それなのに、そんな相手に、手帳を渡せと、薫は頼んでくる。
―――滅多に無い親友の頼み、聞かなきゃね
確かに、そう言ったのは自分だけれど。
「聞けないよ……、薫……」
無音になった室内で、暫くの間、遥の啜り泣く小さな声だけが、空間を揺らしていた。