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あい、見えます。
第5章 見えなくても
* * *
薫からのメールを開いてから数日、遥は図書館へは行かず、自宅で仕事を行っていた。
見えない所で自分のことを知られていく恐怖感が、どうしても外に出て行く一歩を踏み出させてくれない。
手帳の内容を知った時には、余りの驚きに涙が止まらなかったが、時間が経って、冷静に考えられるようになった今でも、これまでと同じ時間に外に出かけようとは思えなかった。
悪い人じゃないのかもしれない。
だとしても、いい人とは限らない。
そんなの、言葉だけじゃ分からない。
昔、文字に起こしたストーカーの講義内容を思い出しながら、食器を片付けた遥はベランダに近寄り、窓ガラスを横に引いた。
さっき聞いていたニュースでは、今日は一日、天気は穏やかに晴れるらしい。
最近、妙なにわか雨が多かったせいで、洗濯物が少し溜まっている。
もうすぐ、9時だ。
秋の気配を感じさせる朝の空気を吸い込んでから、遥は洗濯機のスイッチに手を伸ばした。