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あい、見えます。
第5章 見えなくても



*  *  *



遥に手帳を渡してから1週間。

薫は、図書館に訪れない遥に対し、罪悪感を抱いていた。

自分の知らない所で勝手に名前を知られて、視覚のことも知られて、きっと嫌な思いをしたに違いない。

子供の頃から長く付き合ってきた自分だからこそ、信頼を裏切られた感覚は強いのだろう。

彼女のため、と言っても、当の本人が望んでいないのならば、それは余計なお世話に過ぎない。



「はぁ」



溜息をつきながら書架に本を戻してから、ぼんやりと、その手元を見つめて動きを止める。



(……あ)



本の間へ押し込んだ背表紙を眺めて数秒。

戻し場所を間違えていたことに気付き、我に返った。

児童書の間に専門書を突っ込んでいる。



(あぁ、もう)



軽く首を振って、本を引き抜くと、一つ深呼吸してから、遥は吹き抜けの方を振り返った。

いつもだったら、このガラス張りの空間越しに、遥がパソコンを叩く姿が見えていた。

けれど、今日も見れない、その風景に、小さく唇を噛む。



(あと3日…、会えなかったら電話してみよう)



謝罪だけが目的じゃない。

単純に、友達として、姿が見えないことへの心配が理由だ。

それなら、電話をかける口実に出来る。



「よし」



己を鼓舞するように呟くと、その自分の声を合図に、薫は配架作業に戻った。








薄曇りの太陽が、吹き抜けの空間を静かに照らしていた。












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