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あい、見えます。
第6章 見すごせなくて
* * *
遅めのランチを食べ終えて、ソファに腰かけると、佐々木は、図書館から借りた本を手に取った。
『待ち合わせは暗がり』という題名の、その本は、元は海外の作品らしく、舞台が一昔前のロンドンだ。
病気で失明した男にぶつかった上流階級の女が、身分の違いを越えて、彼の目になろうとするラブロマンスになっている。
―――身分なんて、私達の間には関係ないでしょう? そんな目に見えもしないもの。
思い立ったら動かずに居られない、少々お転婆な気質を持ったヒロインが、恋に及び腰の男に発破をかける。
その台詞に、自然と口元が緩んだ。
失明をきっかけに職を失い、妻をも失った主人公の男は、人としての誇りも失いかけて、彼女の手を取れずにいる。
それを承知で、ヒロインの彼女は、絹の手袋を唇で引き抜くと、男の手を素手で握りしめるのだ。
(男勝り、だな)
そのままページを捲ろうとした瞬間、不意に手元が鈍く明滅した気がした。
「……」
明かり取りの丸いガラスへ顔を向けて、手探りで栞を挟むと、佐々木はゆっくり立ち上がった。
先程まで穏やかな秋晴れが広がっていた空に、視界の端から暗雲が滑り込んできている。
(まずそうだ)
本をソファに置くと、寝室へ急ぐ。
綺麗にカーテンを開け放たれた窓ガラス越しに、濡れた半紙に墨を垂らしたかのように、みるみるうちに黒い雲が広がっていく空が見えた。