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あい、見えます。
第6章 見すごせなくて
素早くガラス窓を開けると、布団と洗濯物を取り込んでベッドの上に投げていく。

真っ暗に急変していく頭上の空は、今にも泣き出しそうな不機嫌さだ。

洗濯機の上に置いていた枕をベッドに投げ込んだ時、佐々木は、はっとして隣のベランダへ視線を向けた。

大気の匂いが湿ってきて、降雨の訪れがすぐそこであることを、五感が告げている。

(……)

視界の先には、遥の家のベランダがある。

朝、見たままの、グレーのブランケットと、ベージュの毛布が見える。

無意識に、そちらに足を踏み出し、佐々木は躊躇した。

骨ばった手で手すりを握り、眉を微かに寄せて逡巡する。



その佐々木の手の甲に、降りだした雨がポツリと冷たく触れた。



考えるより先に、身体が動いていた。

長い腕を伸ばし、ブランケットと毛布を引き寄せる。

上体を乗り出しながら布団バサミを外すと、隣室の寝具を抱え込み、自宅のベッドへと放り投げる。

急いでベランダへ戻ると、衝立裏に器用に手を回し、遥の部屋の洗濯機の上に何か置いていないか手で探る。

上半身が降りだした雨に濡れたが、気にしている余裕は無い。

横になっていた枕を鷲掴みにすると、濡れた前髪を軽く振りながら、自室に戻る。

ちらりと見えたシーツと洗濯物は、流石に腕を伸ばすだけでは取れなかったが、両方共、物干し竿に引っかかっていた。

雨の勢いと方向によっては、何とか全滅は防げるかもしれない。



「はぁ……」



ガラス戸を締めて溜息をつく。

その佐々木の背後で、雨はにわかに勢いを増し、窓ガラスに雨粒を叩きつける勢いで降り出した。

振り向けば、空の奥が何度も曖昧に光って、ごろごろと鈍く重い音を立てている。

(間一髪、だったな)

深呼吸してからベッドの上を見るとまずは隣室の寝具を畳み、枕とともにリビングのソファへ運んだ。

さて、自分の布団も畳もうと、寝室へ戻ろうとする佐々木の耳に、カンカンという急ぎ足の足音が玄関の方から聞こえてきた。
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