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あい、見えます。
第6章 見すごせなくて
* * *
夜8時。
食後のコーヒーを飲みながら、最後の1文を目で辿り終えて、佐々木は本を閉じた。
紆余曲折を経て、2人は結ばれたものの、途中の展開には何度も肝を冷やした。
待ち合わせ場所に訪れないまま男が姿を消したり。
その間に、彼女の元へ結婚を迫る良家の子爵が現れたり。
せっかく仕事を手にいれた男の家には空き巣が入ったり。
疲れ果てた彼女が別荘に引きこもって湖を見つめながら涙を流す場面では、佐々木の胸も切なく締め付けられた。
これで幸せな結末じゃなかったら、うっかり落ち込んでいたかもしれない。
(……)
小さく笑った佐々木は、次に図書館に行く時に返却しようと思い、寝室へ移動した。
棚の裏に置いてある鞄に本を仕舞う。
と、チャイムの音が静かな室内に響いた。
「宅急便、か?」
こんな時間に来訪者があるとは思えない。
また世話好きな実家の母親が何か送ってきたのかと思いながら、スエットの裾を微かに引きずりながら、佐々木はリビングに戻ると、インターホンに繋がる受話器を取った。
「はい?」
「……あの、宮本です。隣の」
少しの沈黙の後、受話器から聞こえた声に、息を飲んで固まってしまった。