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あい、見えます。
第6章 見すごせなくて

「あの…、佐々木さんは、紅茶は、飲まれますか?」

「紅茶?」

「……あ、珈琲、ですよね。きっと」

もどかしそうに表情を曇らせる遥に、佐々木は首を傾げた。

理由は分からないが、自分を知ろうとしてくれていることは嬉しい。

それに、自分だって、彼女のことを知りたいと思っていたのだ。

「紅茶も、飲みますよ」

穏やかに答えれば、視線を上げた遥に頷いてみせる。

「ルピシアの紅茶とか、香りが好きなんです」

男の癖にね、と柔らかい声で付け加えると、遥の表情が驚きから安堵に変わっていく。

(なんだろう)

高揚感が、あった。

遥の喜びを、自分の喜びのように感じ、その喜びは自分との会話で生まれているのだと思えば、体温がゆるりと上がっていく感覚を感じた。

そんな佐々木の前で、微笑んだ遥は手にしていた小さな紙袋を佐々木に差し出す。



「良かった。これ、今日のお礼です。本当に、助かりましたから」



掲げられた紙袋は、ルピシアのものだ。

面食らってから、直後、その気持ちに心が温かくなる。

こんなことをしてもらいたくて、手助けしたわけじゃなかったのに、何より心遣いが嬉しかった。



「そんな、申し訳ないです」

「いえ、いいんです。あの、……お礼、なので」



微笑んだまま紙袋を差し出され、断り続けるのも悪いかと右手を伸ばす。

佐々木の動きに動じる様子もなく、こちらを見つめたままの彼女の姿に、本当に見えないのだと、不意に何かが腑に落ちた。

白く細い指先に、不意に触れそうになる己を律し、佐々木は紙袋の横と底に両手を添えると、緩く微笑んで唇を開く。



「じゃあ、遠慮無く、頂いておきます。ありがとうございます」

「いいえ。私こそ」



両手を前に回して、丁寧に一礼した彼女は、「じゃあ」と小さく告げて、自宅のドアに戻った。



二人は、ほぼ同時に、ドアノブを握った。



それは、扉が開いた瞬間だった。




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