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あい、見えます。
第7章 見える想い



■見える想い



差し出された手帳に手を伸ばし、その指に触れながら、黒い革のそれを受け取った。

中身を確認すれば、やはり、それは佐々木の手帳だった。

だが、どうして、自分の手帳が隣室の彼女の手にあったのか。



佐々木が口を開くよりも、遥が言葉を発する方が半拍、早かった。



「佐々木さん、図書館で手帳を落とされてたんです。それを、私が見つけて図書館に届けてたんですけど……、私の友人が、この手帳は貴方のものだから、返してあげて欲しいと言って、私に、預けていて……」

「あぁ」



そう言われて、確かに手帳を無くす前に、図書館で遥のことを書き留めていたことを思い出す。

が、思い出すと同時に、佐々木は滅多に無く狼狽した。

ということは、この手帳の内容を、彼女は知っているのか?

(いや…)

図書館で出逢った、彼女の友人……、青木といったか、その彼女が、遥に手帳の内容を伝えるはずが無い。

青木薫は、自分をストーカー呼ばわりしていた女性のことだ。

むしろ手帳を読んだら、烈火のごとく怒りだすかもしれないだろう。



佐々木は、手の中の手帳を見つめてから、申し訳無さそうにまつ毛を伏せている遥へ視線をやった。



けれど、だとしたら、何故、彼女は、こんなに萎縮しているのだろうか。

返すタイミングが遅くなったことでも気に病んでいるのか。

それとも、何か、別のことか。



数秒考えたものの、佐々木は柔らかく微笑んで首を振った。



「良かったです。明日にでも、新しい手帳を買いに行こうと思っていたので」



隣人として、紳士的に礼を言う佐々木の声に、遥の表情が更に歪む。



「宮本さん?」



流石に、佐々木も尋ねずにはいられなかった。



「何か、心配事でもあるんですか?」



小さく首を振った遥に、それでも眉を寄せたままの佐々木は、辛抱強く言葉を待った。



膝を緩く曲げて、その顔を覗き込むと、目を閉じた彼女の唇が微かに震えていた。



不意に目を奪われて、気づかれないように身体を戻す。



困った、と息を吐きかけた時、掠れた声が遥の口元から漏れた。








「中身……、知って、るんです」







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