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あい、見えます。
第7章 見える想い
* * *
遥をソファに腰掛けさせて、ガラスのテーブルに置いたままだった珈琲のマグカップをキッチンへ持っていく。
湯を沸かしながらマグカップを洗っていて、ふと、佐々木は、先程の遥の言葉を思い出した。
―――珈琲ですよね。きっと。
洗い終えたカップの底を拭きながら、その言葉の意味を改めて考えた。
恐らく彼女は微かに感じた珈琲の香りで判断したに、違いない。
(そうか)
目が見えない生活というのは、そういうことなのだろう。
食器棚から茶漉しと追加のカップを取り出し、紅茶の茶葉を準備する。
ちらりと振り向けば、遥はソファに座ったまま、何かの宣告を待つ罪人のように項垂れていた。
(……)
何を、どこまで知っているのか分からないが、恐らく、これは”良い機会”かもしれない。
(誰にとっての”良い機会”かは、分からないけれど)
やかんの口が、沸騰を知らせて喚きだした。
火を止めて、茶漉しの中に、ゆったりとお湯を注ぐ。
部屋に、ふわりと甘く柔らかい紅茶の香りが漂い始める。
時間をかけて紅茶を入れると、佐々木は両手にマグカップを持って、遥の座るソファの方へ歩みを進めた。
歩く度にカップの中の紅茶が波打ち、優しい香りを二人の周りに綻ばせた。