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あい、見えます。
第7章 見える想い
ソファに腰掛ける遥の前に、マグカップを置いて、自分は横の一角に胡座をかいて腰を下ろす。
小さく頭を下げた遥に自然と首を振りつつ、少し考えてから、佐々木は口を開いた。
「貴方の目の前に、マグカップを置きました。熱いから気をつけて」
「……ありがとうございます」
白い手が、そっとテーブルの縁に伸ばされる。
ゆっくりとカップの取っ手に触れた指先は、しなやかに、流線型の取っ手に絡んだ。
注意深く紅茶を口元に運ぶ彼女を見つめてから、佐々木も思い出したように、一口そっと喉に流し込んだ。
そして、カップをガラスのテーブルに置くと、その小さな音に押されるように、佐々木は息を吐いた。
「驚いたんじゃ、ないですか? この手帳の中身を、知った時は」
思いの外、穏やかな声が、自分の口から漏れていた。
カップから手を離した彼女が、何処か怯えた表情で、こちらに顔を向けている。
佐々木は自嘲気味に笑みを浮かべると、慎重に言葉を選んだ。
「落とさなかったら、貴方を巻き込むこともなく、不安にさせることも無かった」
「え」
見えないはずの遥の瞳が、大きく見開かれる。
見えないことは分かっていながら、それでも佐々木は、静かに頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
俯いたまま、何故か顔が上げられなくなった。
彼女に、自分が、どう思われているのか。
急に、恐れが波のように押し寄せる。
遥の思いが分からない怯えをよそに、胸の奥に降り積もり、徐々に増している感情から、それでも、もう目を背け続けることが出来ない。
誰に何を言われようとも構わない。
どうしても、彼女を幸せにしたい。
それなのに、まだ知らない彼女の一面を暴きたい。
優しさと苦さの混じった想いは、恋、だ。
(……)
それでも、この想いが彼女にとって重荷なら、あるいは―――。
沈痛な想いで、複雑な胸の内に唇を噛む佐々木の鼓膜を、遥の声が、静かに揺らした。
「驚きました」