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あい、見えます。
第7章 見える想い
しん…としたリビングに、遥の言葉だけが冴えて響き、佐々木は強く眉を寄せて静かに目を閉じた。
(やはり、か)
何かの宣告を待つ罪人は、彼女ではなく自分だったらしい。
いっそ笑い出したくなる投げやりな気分を、無理やり押し込みながら、佐々木は遥の言葉を待った。
だが、彼女は続く言葉を一向に口にしない。
(?)
不審に思った佐々木は顔を上げ、そして、目が離せなくなった。
「遥、さん…」
呆然と呟く彼の前で、遥は静かに涙を流していた。
時が止まったかのように、二人の視線が絡み、沈黙だけが部屋に息づいた。
一瞬なのか、永遠なのか、それさえ分からない沈黙を、
不意に破ったのは、キッチンの蛇口から垂れた小さな水音だった。
はっとした佐々木が、慌てて膝立ちになり、遥に近寄った。
「遥さん、どうしました?」
焦った声で尋ねるが、遥は口元を抑えて素早く首を降る。
「そんなに、ご迷惑であれば、手帳のことは忘れて―――」
「違います」
凛とした声だった。
佐々木が、伸ばしかけた手を止めるほどには、遥の声は何かの意志を持っていた。
その想いを探ろうと、彼は真剣に彼女の瞳を覗き込む。
光が見えないという、その瞳に、それでも彼女の想いが宿っているのを確かめるように。
じっと言葉を待つ佐々木の気配に、遥が震える指を口元から外すと、その指先で涙を拭った。