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あい、見えます。
第7章 見える想い
「驚きました。最初は、凄く怖くて。こんな手帳、捨ててしまおうかと思いました」
涙のせいで、遥の美しい黒髪が、頬に一房、張り付いている。
「初めて会った時に、佐々木さんからお酒と煙草の匂いがしたから、とても怖くて。ホストとか、夜の仕事の人だったら、どうしようかって思ってました」
「……」
「引っ越した時に、ご挨拶に伺ってましたけど、佐々木さん、夜もいらっしゃらなかったから、特殊なお仕事なのかと思ってて」
仕込みがある日は、佐々木は昼過ぎには出かけるし、遥が図書館から帰宅した後だとすれば、その時間はオフの日以外は夜中まで不在だ。
きっと、遥は、そんなことは知らずに、自分の家のチャイムを押してくれたのだろうと、佐々木は目を細めた。
「次の日も声をかけられた時は、まるで、……追われてたみたいな、変な感覚があったから。私、てっきり、何か良くないことに誘われたりするんじゃないかって」
消え入りそうな声に、佐々木が静かにカーペットに腰を降ろし直した。
そんなに、不安にさせていたとは、思わなかった。
罪悪感に佐々木が天を仰ぐ。
「だから、本当に、驚きました。この手帳の中に、私を大事にしたいと書かれていたのが、嘘だと、思って」
「嘘…ですか……」
どこか投げやりに笑って、佐々木が遥に視線を戻す。
泣き止んだ彼女は、静かに頷いていた。
(また、だ……)
黒く澄んだ瞳が、佐々木の胸の奥まで見通すように、こちらを見つめている。
佐々木の顔から、笑みが消えた。
その変化を見ているかのように、遥が薄紅色の唇を、そっと開いた。
「だから、今日……、また、驚きました」
「……」
「佐々木さんは、嘘つきじゃなかったんだって」
言葉と裏腹に、まだぎこちなさの残る微笑みを浮かべた遥に、
佐々木は目を奪われた。
目を奪われて、その瞳に、僅かに熱いものが溢れかけた。