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あい、見えます。
第7章 見える想い
(……!)
慌てて、目元を指の腹で拭う。
見られていないとしても、男の自分が泣くなんて、みっともない。
年甲斐もなく、男泣きなんて、格好もつかないと苦笑する。
だが、彼女の言葉は、どういう意味なのだろうか。
少なくとも、良き隣人としては信頼してくれる、ということなのだろうか。
佐々木は微かに笑みの混じった吐息をこぼすと、気を取り直すようにマグカップを手に取った。
随分ぬるくなった紅茶を一口飲んでから、遥に視線を向ける。
神妙な表情の彼女を、何とか安心させたくなった。
きっと、彼女は手帳の中身について、悩んだに違いない。
悩み考えて、怯え戸惑っただろう、その想いを、解き放ってやりたかった。
「良かった。嘘つきな男が隣に住んでいたら、安心できないでしょう?」
穏やかな声で告げると、遥の眉が小さく持ち上がる。
「これで、安眠できそうですか?」
どこか淋しげな彼女を支えたいと思ったら、自然と声が優しくなっていた。
「……さい、を……」
「え?」
だから、不意に小さな声になった遥の言葉を、一瞬、佐々木の耳は捉え損なった。
「すみません、よく聞こえませんでした」
「……」
「宮本さん?」
「……”お休みなさい”を、言ってくれるなら」
言葉の意味を理解した時には、遥の顔は、朱を刷いたように赤らんでいた。