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あい、見えます。
第8章 見せて、触れて
「そういえば、私をホストだと思ったって、言ってましたね」
深く染み入るような佐々木の声は、耳に心地よい。
穏やかな声に遥は少し身体を相手の方へ向けながら頷いた。
「佐々木さん、スマートだから」
「ははは…、そうですか? でも、似てるかもしれないですね、バーテンダーとホストは」
「バーテンダー?」
「はい。Jazzの流れるバーでね。お酒を作ってます」
「あ、だから、お酒の匂いがしたんだ」
納得して呟く遥の顔を、佐々木がつけたベッド脇のサイドランプが淡くオレンジ色に照らしている。
綺麗な顔立ちに柔らかく陰影が浮かぶのを横目に見てから、佐々木も少し身体を彼女の方へ向けた。
「遥さんは、お酒は飲まれますか?」
問われて、遥は「お酒…」と呟いた。
「あんまり強いのは苦手、だと思います。私、カクテルくらいしか飲んだことなくて」
「例えば、どんなカクテルですか?」
「スクリュードライバーとか。あの、オレンジジュースみたいな…、あれとかです」
「あぁ。なるほど」
今度は、佐々木の声が納得の音を奏でた。
「初めて飲んだ時は、どんな風に感じました?」
「あれは、美味しかったです。ビールは、苦くて余り飲めなかったけど……」
「そうですか。じゃあ、やっぱり、遥さんはお酒が飲める人ですよ」
「え?」
「カクテルは、概ね、ビールよりアルコールは強いんです。口当たりはいいですけどね」
「そうなんですか?」
「はい」
意外な事実に、何だか不思議な思いが、遥の胸に広がった。
知らなかったことを教えてくれる人がいること。
知らないことがある自分を見守ってくれる人がいること。
(なんだろう、この感じ)
春の日差しのような温もりに、知らずに表情が緩んでいく。