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あい、見えます。
第8章 見せて、触れて
「私、そんなに暗い顔、してたんですか?」

「そうですね……。何か、憂鬱そうというか、何というか」

あの頃、考えていたことは良く覚えている。

だって、それは、今も考えると憂鬱なことなのだから。

「全然、深刻な話じゃないんですよ。あの……引っ越した時のダンボールが、まだ、開けきれてなくて」

「え」

「どこに何を仕舞うか、そういうことを考えるのが凄く苦手なんです」

遥は隣の自室を思い出して、恥ずかしそうに溜息をついた。

「ベッドとパソコン、必要最低限のものは揃ってるし、生活は出来るんですけど……、冬服は出せてないし、電子レンジも、どこに置こうか迷ってて、結局、まだダンボールの中で。でも、私にとっては、ダンボールも生活の一部になっちゃってるから、困ってないのも、ある意味、事実で…」

苦笑して、一瞬、唇を噤んだ。

「女性らしく、ないでしょう? 一人暮らしなんだから、自由でイイと思うんですけど、でも、最低限のこともしてないなんて、恥ずかしいなって思うことも、あって」

「そうだったんですか」

佐々木の声が、ほっとしたように聞こえて、本当に心配してくれていたんだと、また胸が温かくなった。

同時に、何だか、どうしようもない部分を知られたようで恥ずかしくもなる。

照れ笑いを隠しながら、少し壁の方へ顔を反らした。

「ねぇ、遥さん」

そんな自分を、佐々木は一層優しく呼んでくれる。

また、胸がざわめいて、言葉も出せないまま、振り返った。

「良かったら、今度一緒に、部屋の片付けをさせてもらえませんか?」

「……佐々木さん」

「貴方が、嫌じゃなければ」

甘い声に、色々な感覚が不意に遠ざかった気がした。

言葉も、思考も、何もかもが遠くの方へ押しやられて。

遥は、気付けば伸ばした右手で佐々木の右手を探り当て、指を絡めていた。



「嫌なはず、無いです…」


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