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あい、見えます。
第8章 見せて、触れて

心臓が壊れてしまうんじゃないかと思うほど、胸の奥が痛く鼓動している。

緊張して動くきっかけを忘れてしまったせいで、開いたままの唇が吐息で乾き違和感を訴えた。

それでも、佐々木の声が何度も脳裏で繰り返されて、やはり動くことが出来ない。



―――貴方に、触れたい。



たった一言なのに、その響きは、遥の身体を柔らかく縛った。

言葉が紡げずに、切なさに呼吸が揺れる。

息が詰まるような沈黙が、苦しくて、瞬くことも辛く感じた。



「遥さん」



丁寧に名前を呼ばれて、何故か泣きたくなった。

声は、まっすぐ正面から遥の心に向かってかけられた。

静かに、穏やかに、けれど、微かに熱っぽい。



(……私)



自分に触れたいと言ってくれた人は、私を見ている。

その眼差しを感じた。

空気は動かないのに。

何の音もしないのに。

彼の目は、間違いなく、自分を写してくれている。



確信があった。



きっと今、この人は、私を見つめている。



そう思ったら、自然と唇が動いていた。





「私も、佐々木さんに触れたい…」





返事は無かった。





代わりに、唇に柔らかい温もりが触れて。





包み込まれるような口付けに、遥は目を閉じた。






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