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テンプテーション【完結】
第3章 囲い込まれる野良猫
     *

 私たちは会社の最寄り駅まで行き、そこでお昼を食べてから不動産屋へ向かった。
 日曜日なのに……なのか、日曜日だからなのか分からないけれど、お客さんが思ったよりいた。
「月野木ですが」
 と貴博さんが名乗った途端、奥から男性が慌てて出てきた。
「お待ちしておりました! わたくし、多島と申します」
 多島さんは貴博さんに名刺を渡すと、額に浮いた汗を拭きながらぺこぺこと頭を下げていた。
 思わず私たちは顔を見合わせた。
「さあ、奥へ!」
 多島さんにせっつかれるようにして、奥へと連れて行かれた私たちは、応接室に通されてそこにいた人を見て目が点になった。
「貴博、待っていたのよぉ」
 そこには、貴博さんのご両親が悠然とソファに座っていた。

 私たちは促されるままにご両親の前のソファに腰掛けた。
「本日は奥寺不動産にわざわざご来店いただき、ありがとうございます」
 多島さんが口上を述べているのだけど、貴博さんのご両親の登場の驚きと身体の気だるさで隣にいる貴博さんにもたれ掛かりたくて仕方がない。そんなことしたら社会人として失格なので、必死に耐えていた。
 なにやら話が始まっているのだけど、集中できない。
「真白?」
「……はい?」
 貴博さんが心配そうに声を掛けてきたことで意識がはっきりとした。
「どうした? 調子がよくないのか?」
「いえ、大丈夫です!」
「それなら、物件を見に行こうか」
「……え?」
 よく見るとソファの前の机の上には図面が置かれていた。私が朦朧としている間にそこまで話が進んでいたらしい。
「ここから歩いて五分くらいだけど、車で案内してくれる」
 どうもほぼ決定のような雰囲気を感じたけれど、実物を見てから最終判断をするのだろう。
「わたくしたちは見た後だから、ここで帰らせていただくわ。仮押さえしていた物件だから、気に入ればあなたたちの新居にしたらいいわ」
 というお母さまの言葉に首を傾げつつ、車に乗り込む。
 謎の言葉については多島さんが運転をしながら教えてくれた。
「来月から引き渡し開始の新規物件なのですが、募集開始と同時に月野木さまがご契約をしてくださったのですよ」
「契約……?」
「はい。ありがたいことに即金で全額ご購入くださいました」
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