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テンプテーション【完結】
第3章 囲い込まれる野良猫
     *

 中を見させてもらったけど、あまりの広さにくらくらした。しかもところどころで和がおさえられていて、そういうさりげなさがすごく心憎い。
 文句は全くないのですが、いや、だからってここがいいですなんて甘えたことを言えなくてもじもじしていたら、マンションの案内が終わってすぐに貴博さんはどこかに電話をかけていた。
「今、見終わった。俺たちがここに住んでも問題ない? あぁ、そういうことか、了解。申し訳ないけど、手続きを頼んでもいいか? うん……分かった。じゃあ」
 ってなんですか、それっ!
「たっ、貴博さんっ?」
「どうした?」
 いつもの爽やか笑顔を向けられて思わず微笑み返しそうになったけど、違うのよ!
「今の電話っ」
「うん、親父に掛けた。気に入って買ったけど、二人で住むには広すぎるからどのみち俺の部屋になるところだったそうだ」
「はぁ?」
「真白も気に入ったみたいだし、問題ないだろ? 通勤も楽になるし、生活の利便性は悪くない」
 貴博さんは私の手を取ると、嬉しそうに笑った。
「会社まで歩いてみて、それから帰ろう」
 あっさり決まりすぎではないですか?
 これでいいんですか?
 いえね、メゾネットタイプってだけでもあこがれなのに、さらに四LDKの間取りで、しかもリビングダイニングはめちゃくちゃ広くて、窓も大きいから採光性が高くて、L字型のアイランドキッチンがあって、天井も高くて、理想の間取りなんですよ。しかもお風呂も広いし、トイレも二つあるし、なんですか、これ。しかも二階部分はとても広いベランダになっていたのだ。ここでランチを食べたら幸せそうだな……なんて。
 文句のつけようがなさすぎて困る。
 一つだけ難点を上げようとしたけど、それもすでに解決済みだから困る。
 私たち二人だけだったらとてもではないけど手が届かなかった物件だけど、貴博さんのご両親がすでに購入済みだというのだ。
「管理費と修繕積立金は出すようにと言っていたな」
 私の考えを読んだかのような貴博さんの言葉にちょっとだけほっとした。それまで出してあげるなんて言われたら、遠慮するところだったわよ。
「あの二人は俺に対して甘いんだよな」
「そんな感じです」
「祖母に任せっきりだったのを負い目に感じているみたいなんだ」
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