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テンプテーション【完結】
第1章 告白から始まる恋?
 告白されてからこちら、思い出せば、月野木さんは色んなところで私に対してアピールしていたのに、私は見事にスルーしていた。月野木さんはモテるから、そんな人が私を恋愛対象に見るなんて思ってなかった。恋愛対象外の私に対してからかってるだけなんだって思いこんでいた。
 それに月野木さんにも彼氏なんてほしくないって何度も言っていたし、私が月野木さんのことを同期で気の合う男友だちという認識でいたのと同じで、月野木さんにとって私は単に話がしやすい女友だちという認識でしかないと思っていた。それが蓋を開けてみたら全然違っていたなんて。
 今までの自分の言動を思い出すと、あまりのひどさに頭が痛い。
 私、自慢じゃないけれど、そういう機微にはとことん疎いのよ。月野木さんも私のことを好きなら好きって言ってくれればいいのに。
 それとももしかして、月野木さんは鈍い私を見て楽しんでいたとか? あの人ならあり得そうでそれはそれで嫌だなあ。
 いつになったら気がつくかな、なんて思いながら私に付き合ってくれていたとしたら、恥ずかしい。

 正直なところ、今だって夢だったのではないかと思っていたりする。
 仕事は楽しい。このまま続けたい。できたら定年退職するまで頑張りたいと思っている。
 そう思う気持ちが強いけれど、だけどやっぱり、どこかで男性に甘えたいという気持ちも持っている。
 彼氏・彼女の話やだんなさんや奥さん、子どもの話を聞いていると、心の奥底では羨ましいと思っている自分がいるのだ。
 一人で生きていくと決めた。仕事が恋人だと思っていた。
 だけど──。
 だけど、本当にそれでいいの? と心の奥底から本音が囁きかけてくるのだ。
 その囁きに耳を傾けると、私も本当は彼氏なり、だんなさんが欲しいって思っていたのだ。だけどこればっかりは相手がいなくては始まらない。本音は自分一人で解決できる事柄ではないのだ。だからといって、紹介所を利用したり、お見合いをしようなんて前向きな気持ちにもならなかった。
 自覚されない、満たされない思い。でもそれは、月に一度の食事会がほんの少しだけ満たしてくれるものだった。月に一度、いい男と二人っきりで美味しい物を食べる。満たされない気持ちを彼は満たしてくれた。
 私は月野木さんをそういう風に利用していた部分もあったと思う。
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