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テンプテーション【完結】
第1章 告白から始まる恋?
 だから私は昨日、月野木さんの求めにすぐに答えられなかった。
 月野木さんに彼女がいるかもしれないと思っても、食事会を止めようと言えなかったのは自分の淋しさを埋めるためのわがままだった。
 仕事が恋人だって思っていた。でも、気がついていた。いくら仕事を頑張ったって、満たされないなにかがあるってことに。
 それがなにか分からない振りをして、仕事に打ち込んだ。だけど仕事をすればするほど、それは違うというのが嫌というほど分かっていたのだ。
 足りないなにかが分からなくて、途方に暮れているところに月野木さんにプロポーズされて……。そう、私の心は満たされたのだ。そして満たされない気持ちは仕事が与えてくれるものではなかったと、思い知った。
 月野木さんに愛していると言われて、すごく満たされた。
 月に一度の食事会を心待ちにしていたのは、美味しい料理もだけど、一緒に行く相手が月野木さんだったからと気がついた。
 鈍い私はあの告白で、月野木さんのことを好きだと初めて認識した。ほんと、われながら鈍いと思う。
 私の答えは想定内だったのか、それともはっきりと拒絶されるとでも思っていたのか。妙にほっとした表情で私の顔を見下ろして……って。
 えっ、ちょっ? い、今、気がついたけどっ! あのとき、むちゃくちゃ距離が近くなかった? しかもさりげなく肩に手を回されていたような気がっ。目と目があって、月野木さんの光彩の色、思っているよりも薄い茶色なんだなんて。
 思い出したら急にどきどきしてきた。ああ、なんて鈍いの……。
 数時間後に遅れてどきどきさせてくる月野木さんって、なんだかずるい。
 月野木さんはじっと私の瞳をのぞき込んだ後、視線を和らげて愛おしい者を見るような瞳を向けてきた。そして……。
「五年も待ちましたから、色よい返事がいただけるのならいつまでも待ちますよ、って」
 月野木さんに言われた言葉をトレースして、そこでまたもや私は固まった。
「ご……五年?」
 五年も待っていたって、なにそれ?
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