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テンプテーション【完結】
第3章 囲い込まれる野良猫
「食の好みは合うから問題ないって思ってたけど、これで確信した。真白さん、結婚して」
「……してますけど」
「うん、分かってる。改めてプロポーズ」
 貴博さんはテーブル越しに手を伸ばしてきて、あの色っぽい視線をして私の手を取った。牛丼の入っていた器を挟んでいるのがなんだかおかしかったけど、すっかり私は貴博さんの雰囲気に飲み込まれていた。
「真白、結婚してください」
 すでに入籍してるじゃないと思ったけれど、ぎらぎらとした視線にそんな突っ込みもできず、思わず息をのんだ。アルコールのせいだけではなく、貴博さんのせいで心臓がものすごくばくばくいっているのが分かった。
「俺、毎日、真白にプロポーズできそう……」
「毎日言われても困ります」
「俺が言いたい。むしろ言わせろ」
 急に俺さまになる貴博さんにどうすればいいのか分からなくて無言でいると、ローテーブルを回って真横にやってきた。私の身体をきゅっと抱きしめると、甘い声で囁いてきた。
「真白と結婚して、よかったって思ってる。むしろ、できてなかったら死ぬ」
「えええっ」
 そんなに大げさなものではないと思うのですが!
「結婚したって実感したいから、俺は何度でもプロポーズする!」
 ちょっとずれているかもと思ったけれど、貴博さんがしたいのならそれはそれでいいのかなと特に止めないことにした。
「貴博さんって面白いです」
「面白くない。真白にひたむきなんだ」
 そう言われてみると、確かにそうだ。貴博さんは私に告白してからこちら、びっくりするくらい真正面から愛情表現をしている。真っ直ぐに向けられる好意って、すごくくすぐったい。でも、その面はゆさが気持ちよくもある。
 そんな貴博さんの腕の中にいると、とても温かくて気持ちがいい。
 ふと視線を感じて顔を上げると目が合って、自然と唇が重なった。
 軽く唇が重なるだけのキスだったけれど、まるで誓いのキスのようでくすぐったい気持ちになった。
 優しく慈しむようにそれは何度も繰り返され、貴博さんはとても満ち足りたような表情で私を見つめてきた。
「真白がいる」
「はい」
「ずっとこうやって抱きしめたかった」
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