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テンプテーション【完結】
第3章 囲い込まれる野良猫
 脱衣所と浴室の間の扉は磨りガラスになっているから中の様子がうっすらとうかがえる。それは逆もしかりであるのだけど、別のことに気を取られていて気がつかなかった。どれくらい前から待っていたのか分からないけど、これまた恥ずかしい。
 しかも! オイルを塗ってくれるってことは、裸にならないといけないわけで。そういえば前にも待っていてくれていて塗ってくれたけれど、あの時は少しばかりもうろうとしていたからあんまり羞恥心はなかった。だけど今はそうではないからとにかく恥ずかしくて仕方がない。
「自分で塗れます!」
「背中も?」
「……う」
 身体はそれなりに柔らかい方だと思うけれど、さすがに自分で背中にきちんと塗ろうと思ったら大変なのは知っている。
 どうしようとそっと扉を開けてうかがい見ると、貴博さんは笑みを浮かべてこちらを見ていた。出たいのだけど、裸で出る勇気はない。
「あの……タオルを」
「ああ」
 貴博さんは私のお願いに素直に応えてくれて、用意していたバスタオルを手渡してくれた。
「ありがとうございます」
 隙間からバスタオルを受け取り、浴室で身体を拭いてからタオルを巻いた。脱衣所に貴博さんがいるのが磨りガラス越しに見える。
「ほら、出ておいで」
 貴博さんの声にそっと扉を開くと手招きされた。自分が猫になったかのような錯覚に陥る。そして貴博さんの手の気持ち良さを知っている私はその誘惑にあらがえず、ふらふらと引き寄せられるようにして浴室から脱衣所へ戻った。身体にはタオルを巻いているけれど、肩口から胸元にかけて貴博さんが付けたキスマークが所狭しとついている。
「お風呂に入って温まったからか、キスマークがはっきり見えるな」
 貴博さんはそういうと指先で自分がつけたキスマークをなぞった。ぞくりとする感覚から逃れたくて、貴博さんに抗議した。
「もうっ、なんでこんなにたくさん付けてるんですかっ!」
「真白のことが愛しすぎて止まらなかったから」
 真顔でそう言われるとなんと返して良いのか分からない。
 真っ赤になって佇んでいると、貴博さんは両手にたっぷりのボディオイルを取って手のひらの中で温めた後、タオルに覆われていないところにまず塗ってくれた。貴博さんの手がとても気持ち良くてうっとりする。
「肩も凝ってるな」
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