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テンプテーション【完結】
第3章 囲い込まれる野良猫
気心の知れたといった感じで馬鹿な話もよくしたけれど、貴博さんがいうように心は穏やかだった。仕事でささくれていた心がいつの間にか癒されていた。
仕事は辛くて悲しいことが多い。だけど、月に一度、貴博さんと数時間、食事をするだけで救われていた。
「貴博さんからのプロポーズ、最初はとても驚きました。だけど……」
この先の言葉を口にするのはとても勇気がいったけれど、今しかないと思って口にした。
「私、心のどこかで貴博さんから好きって言ってもらうのを待っていたのかもしれないです」
いくら私が鈍いといっても、貴博さんが私に対して好意は持ってくれているというのだけは分かっていた。月に一度の食事会はちょっとではなく、かなりの好意がなければ続かないと思うのだ。だからもしかしてと思った時期もあった。でも、貴博さんはいつも同じ態度だったし、もちろん、今にして思えば貴博さんは貴博さんでアピールしていたのは分かったけれど、それは私の勘違いかなと思わせるような態度だった。
「待っていた……?」
「待っていたといったらちょっと語弊があるかもですが、期待というか……なんというか。ちょっと言葉にするのが難しいのですが、少なくとも貴博さんは私のことを嫌っていないってのは態度や言動で分かっていたのですけど、欲張りたかったのですよ、一時期」
貴博さんが社内で人気があるのは知っていた。そんな人と月に一度とはいえ、二人っきりで食事をしているというのは私の中でちょっとした誇りであり、自慢でもあった。でも、さゆみちゃん以外に言ったことはなかった。
「……そうだったんだ」
「色々と噂話は聞こえてくるのですよ、これでも。貴博さんがだれそれさんに告白されたけど振ったとか」
「……あぁ」
「しかも理由がいつも一緒で『好きな人がいるから』ってことで、その好きな人がだれかって話題に……って」
ちょっと待って。貴博さんの好きな人って。
「……好きな人って、まさか」
「そのまさかですけど、俺の愛しの奥さま?」
仕事は辛くて悲しいことが多い。だけど、月に一度、貴博さんと数時間、食事をするだけで救われていた。
「貴博さんからのプロポーズ、最初はとても驚きました。だけど……」
この先の言葉を口にするのはとても勇気がいったけれど、今しかないと思って口にした。
「私、心のどこかで貴博さんから好きって言ってもらうのを待っていたのかもしれないです」
いくら私が鈍いといっても、貴博さんが私に対して好意は持ってくれているというのだけは分かっていた。月に一度の食事会はちょっとではなく、かなりの好意がなければ続かないと思うのだ。だからもしかしてと思った時期もあった。でも、貴博さんはいつも同じ態度だったし、もちろん、今にして思えば貴博さんは貴博さんでアピールしていたのは分かったけれど、それは私の勘違いかなと思わせるような態度だった。
「待っていた……?」
「待っていたといったらちょっと語弊があるかもですが、期待というか……なんというか。ちょっと言葉にするのが難しいのですが、少なくとも貴博さんは私のことを嫌っていないってのは態度や言動で分かっていたのですけど、欲張りたかったのですよ、一時期」
貴博さんが社内で人気があるのは知っていた。そんな人と月に一度とはいえ、二人っきりで食事をしているというのは私の中でちょっとした誇りであり、自慢でもあった。でも、さゆみちゃん以外に言ったことはなかった。
「……そうだったんだ」
「色々と噂話は聞こえてくるのですよ、これでも。貴博さんがだれそれさんに告白されたけど振ったとか」
「……あぁ」
「しかも理由がいつも一緒で『好きな人がいるから』ってことで、その好きな人がだれかって話題に……って」
ちょっと待って。貴博さんの好きな人って。
「……好きな人って、まさか」
「そのまさかですけど、俺の愛しの奥さま?」