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テンプテーション【完結】
第3章 囲い込まれる野良猫
 その質問の意味は未だによく分からない。
「相手がなにを期待して聞いてきたのか分からなかったので、私の同期ですってしか答えていません」
「それで相手は?」
「他にも色々と聞いてきましたけど、私には答えられないですって返したら、みなさん、諦めて帰っていきました」
 だって、どこの大学出身で住んでいる場所や家族構成を聞かれたけれど、知っていてもそれって答えていいとは思えなかったのだ。しかも相手はどう見ても敵意を抱いているとしか思えなかったから、余計に答えられなかった。
「中には食い下がってきてしつこい人もいましたから、知りたければ本人に聞いてくださいって答えました」
「ぶっ」
 どうしてそこで貴博さんが吹き出したのか分からなくて睨み付けたけれど、薄闇の中だからたぶん見えていない。それでも、私の態度で分かったのか、貴博さんは肩で笑いながら理由を口にした。
「本人に聞けないから真白に聞きにきているのに、本人に聞けってばっさり切るところが真白らしいな」
「だって、本人が知らないところで個人情報が流れるのって嫌じゃないですか」
「まあな」
 噂話というのは、尾ひれ背びれがついてなんぼだ。下手に答えられないのは分かっていたから全部、答えなかった。
「となるとだ。会社に結婚したという報告をしないといけないわけだが」
「あ」
「まあ、それは月曜日でなくてもいいとして、引っ越したらどちらにしても俺と真白が結婚したことが分かるよな」
「……そうですね」
「俺は早いところ、真白を俺のものにしたって喧伝して回りたいんだけど、真白が嫌だよな……?」
 貴博さんと結婚したということが分かったら、色々と言われるのが分かっていたのでそれで仕事に支障が来すのが嫌だ。
「和田部長を交えて、月曜日に打ち合わせをしよう」
「そう……ですね」
 貴博さんと結婚できたことはとても幸せだし嬉しいのだけど、そういう煩わしいことはできたら避けたかった。これが社内結婚でなければもっと違った感想だったのだろうけれど、どう見ても社内結婚だもんなぁ。
 うんざりしてため息をつくと、貴博さんは慰めるように頭を撫でてくれた。
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