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テンプテーション【完結】
第4章 周辺がにぎやかすぎて困ります!
     *

 どうにか歩けるようになったので、必要な荷物を持ち、貴博さんの部屋へ戻ることにした。
 私の部屋であんなことをやっていたのですでに遅い時間。一人でここを歩くのは怖いけれど、今は貴博さんがいるから平気だ。
「なあ、真白」
「はい」
「明日なんだが、俺、午前中は実家の病院の手伝いがあるんだ」
 そう言われて、貴博さんの週間スケジュールを思い出した。
 うちの会社に産業医として出勤してくるのは月・水・金曜日。火曜日と木曜日はおうちのお手伝いをしているそうだ。
「新居に移って慣れるまでは火曜日と木曜日の病院勤務は今まで通り午前中だけにしてもらうつもりでいる」
「え……」
「産業医になって五年。俺も色々と考えることがあって、この先の自分の身の振り方をすごく悩んでいるんだ」
 そういえば前にも食事会の時、ちらりとそんな話を聞いたことがあった。
 あれは入社して三年目だったような気がする。
 いつもは穏やかな表情をしている貴博さんが妙に思い詰めているように見えたので、話を振った時のことだ。貴博さんはかなり躊躇したみたいだけど、申し訳なさそうに吐露してくれた。
 ──大学で学んだことと現場とではまるで違っている。最初の一年はただがむしゃらだった。二年目はそれなりに余裕が出てきた。三年目になって今までを振り返って、これで良かったのかという不安が出てきたと。
 私も似たような気持ちでいたので、すごく真剣に話し合った。
 そして貴博さんは、なにかを決断して、実行に移したらしい。
 というのも、この話をした後、改めてどうしたのかという話がなかったからだ。
「あれ……」
 そういえば、と思い出した。
「貴博さんって元から月・水・金の勤務でした?」
 私の問いに、貴博さんは少しだけ顔を引きつらせて、それからため息を吐いた。
「……いや」
「もしかして、あの時に悩んでいた結果ですか?」
 私の端的な言葉に貴博さんはさらにため息を吐いた。
「覚えていたか」
「覚えてますよ。だってちょうど私も似たような悩みを抱えていたところでしたから。だけどあの話をしてから私はかなりすっきりしましたけど、貴博さんは違っていたってことですよね」
「違っていたというと語弊があるけれど、真白とあの時に話をしたことで決断を下せたんだ」
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