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テンプテーション【完結】
第4章 周辺がにぎやかすぎて困ります!
 中本課長への憤りを仕事にぶつけたら、予定していた仕事が思ったよりも早く終わったので本日も定時で帰れる。身体が怠いので助かった。
 帰り支度をして、貴博さんに帰るというメッセージを送った。
 電車に乗っていると、貴博さんから返事が来た。
 すでに部屋に戻っているということで、そのまま貴博さんの部屋へと向かった。
 インターホンを押すとすぐにドアが開き、招き入れられた。鍵を掛けると抱きしめられた後、甘い声で
「おかえり」
 と貴博さんが耳元で囁いた。くすぐったい気持ちでいっぱいになる。
「……ただいま、です」
 玄関口で待ちかまえているのが実家で飼っていた犬みたいだと思ったけれど、それを上回る恥ずかしさに貴博さんの胸元に顔を埋めた。
 恥ずかしくて貴博さんの腕の中でもぞもぞしていると、少し笑いを含んだ声が上から降ってきた。
「ご飯にする? お風呂にする? それとも、あ・た・し?」
 あまりにもベタな言葉に驚いて顔を上げると、貴博さんは今にも笑い出しそうな表情をしていた。これでまじめな表情をされていたら、私が笑っていたところだった。とはいえ、おかしかったので吹き出すと、つられて貴博さんも一緒になって笑った。
 二人で笑った後、貴博さんは目尻に浮かんだ涙を拭いながら口を開いた。
「……自分で言っておいてなんだが、これはやっぱり真白に言って欲しいな」
「いやいや、私は言いませんよ」
 なんでそんな恥ずかしいせりふを言わなければいけないのよ。
「そうだな。俺が出迎えられる側だったら、迷いなく真白を押し倒しているから聞くまでもない」
「えええっ」
 帰宅するなり押し倒されるのは勘弁してくださいって!
 慌てて貴博さんから離れようとしたら、きゅっと強く抱きしめられた。
「お帰り、真白」
 甘ったるい声と腕の温もりと貴博さんの気配に、帰ってきたと実感した。
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