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テンプテーション【完結】
第5章 幸せの誘惑(完)
 期待に満ちた視線を向けられると、強く嫌だなんて言えない。
「あの……ほんと、私は貴博さんと結婚できただけで嬉しいので……」
 そう言えば結婚式はなくなるかなと思ったのに、逆効果だった。
「よし、真白は俺のものだって見せびらかせるために結婚式をやろう!」
 どういうことですか、これは。
「式は神前式で、披露宴会場は屋形船で和風なところを見つけてきたようなんだ」
 なっ、なんですってっ!
「すごい、素敵です!」
 私が食いついたのを知った貴博さんは、少し残念そうな表情を浮かべた。
「ただ、屋形船は人数が限られているから、二次会にしようかとも思っているんだ」
「え……。屋形船ってどれだけの人が乗れるんですか?」
 船だから、それほど多くが乗れるとは思っていないけれど、兄弟と親戚だけでは済まないの?
「五十名まで乗れるとは聞いている」
「それで充分じゃないですか?」
「そういうわけにもいかないんだよ。上二人が結婚式をやったときは二百人以上は呼んだんじゃないかな」
「ええええっ」
 なにそれっ?
「さすがにそんなに呼ばないけど、百名近くなりそうと言っていたな」
「…………」
 どうやら避けて通れない話のようだ。
「神宮で結婚式して、特別車で披露宴会場に移動して披露宴。夜は屋形船で二次会。ちょっと大変だけど、俺はドレスに和装にと着飾った真白を見られるから嬉しいな」
「貴博さんがそういうのなら……」
 貴博さんが喜んでくれるから、だからね! べ、別に着物を着たい訳じゃないのよ!
「白無垢と色打掛に、ウエディングドレスにカラードレス……ちょっと欲張りすぎかな」
 貴博さん、どうして私よりノリノリなんですか。
「白無垢と色打掛だけでいいです……」
 と口にしてから、しまったと思った。貴博さん相手だと、つい本音が……。
「ウエディングドレスは着なくていいのか?」
「白無垢がいいです」
「俺は見たかったなぁ。……そうか、別に式当日でなくてもいいのか。分かった」
 なにがどう分かったのか分からないけれど、嫌な予感しかしません!
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