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テンプテーション【完結】
第5章 幸せの誘惑(完)
 大変申し訳なくて小さくなっていると、貴博さんは私の横へやってきた。
「疲れるのは無理もない。俺も昨日はすごく疲れたから」
 寝癖のついた髪を優しく撫でてくれて、気持ち良さに目を細めていると、抱きしめられた。
「あまり無理や我慢はしないでほしいんだ」
「……はい」
「うちの両親はあんな感じだから、だれかがセーブしないと段々とエスカレートするんだ」
 そう言われて、思わず顔が引きつった。
 顔合わせの席では、うちの母と貴博さんのお母さまが同級生だということが判明し、二人は久しぶりの再会でおおいに盛り上がってしまった。
 お互いの両親の気が合わないという懸念がなくなったのは良かったけれど、二人だけで盛り上がってしまって残された私たちはぽかーんだった。
 貴博さんのお父さまが気を利かせてくれたからようやく軌道修正はされた。最初のハプニングはともかく、顔合わせはつつがなく終了した。
 その後、二人はまた会う約束をしたようだ。久しぶりに会って話が盛り上がった気持ちは分からないでもないけれど、困ったものだ。

 そのまま会場を変えて、結婚式の打ち合わせとなった。
 東泉家側の事情は顔合わせの席で話していたから披露宴は避けられるかと思ったけれど、無駄だった。
 いえ、分かりきっていたことでしたけど! 私は顔合わせだけでお腹いっぱいだったからすでにキャパオーバーだった。
 自分の結婚式なのに、すでに自分では決められないレベルにまで話が及んでいて、胃がきりきりと痛むだけだった。
 貴博さんは親孝行だと思って好きにさせてほしいと言ってくれたけれど、親孝行になるのですか?
 住む家までお世話になってしまっていたので申し訳なくて、私と貴博さんが主役のはずなのに端で小さくなっていることしかできなかった。
 そうやって気配を殺して小さくなっていたのもあり、妙な消耗をしてしまったのだ。

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