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テンプテーション【完結】
第5章 幸せの誘惑(完)
     *

 部屋でやるには明るいし、シャワーを浴びてないからということで浴室に来た時点でそうなるのは予想はしていたけれど、ここでってどういうことですか。というか、どうやって、するの?
「え、た、貴博さんっ?」
 動揺して思わず上擦った声を返したら、後ろで笑う声が聞こえた。
「誘っておいて、お預け?」
「う……」
 確かに誘いました。
 それは否定しないけど、ここから先はどうすればいいのか分からないし、恥ずかしくてあれが精一杯だったのだから、いつもみたいにリードしてくれればいいのに。
「かっ、確認しないでください」
「いつも俺ばっかり真白に要求しているみたいで、申し訳ないなと思うんだよ」
「そんなこと、ないですって」
「……そうなのか?」
「嫌だったら嫌だっていいますから、確認しないで、優しくリードをしてください」
 そう返すと、ぎゅっと抱きしめられた。
「分かった。暴走したら止めてくれると信じて、真白にすべてを委ねる」
 そう言われたら前例があるからかなり不安になったけれど、うなずきを返した。
「それにしても、優しくリードしてって、ナチュラルに煽りすぎだろ、真白」
「他に思いつかなかったんです」
「ん……。かわいすぎ」
 貴博さんの腕が脇腹を通り抜け、下からすくうようにして胸へと伸びてきた。ちゃぷんとお湯の音が響き、どきりとした。
 お湯の中で、しかも背後からというのは初めてで、貴博さんの手が動く度に水が揺れ、温かな波が肩を撫でていく。貴博さんが触れているところと、お湯が音を立てて皮膚を撫でていく感触と混ざり合い、敏感になった私の身体はお湯が揺れるだけで甘い声を上げた。
「そんなに我慢、していたの?」
 ため息混じりの艶声で聞かれて、カッと身体が熱くなった。
 我慢をしていたつもりはない。だけど、貴博さんの色気を帯びた声に熱が伝播させられたからだ。
 貴博さんの指は私に触れるか触れないかだけど、指が揺れるとお湯が揺れて肌に当たり、撫でていく。お湯の柔らかな刺激がもどかしくて身体を揺らすと、ちゃぷんと音が鳴った。
 やわやわと触れられるのがくすぐったくて、くすくす笑うときつく抱きしめられた。
「はー、幸せだ」
「……はい」
「さっきまでやる気満々だったんだけど」
「う」
「こうやってただひたすらいちゃついているだけでも幸せだって気がついたから、やめた」
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