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テンプテーション【完結】
第5章 幸せの誘惑(完)
     *

 出掛ける準備をして、貴博さんに連れて来られたのは、貴博さんの実家だった。
「俺の昔の写真は、ここの倉庫に収められてるんだ」
 そういいながら貴博さんは立派な檜と思われる木で出来た門の前に立つとインターホンを押し、対応に出た人となにか話をすると裏へと回った。
 改めて思うのが、貴博さんってお坊ちゃんだよなあ、だった。そこはかとなく漂う育ちのよさってのは、やはり環境要因もかなり大きいのだなと改めて思った。
「後で兄貴二人と兄貴の奥さんたちが挨拶したいってさ」
「あ……」
 そうだった、すっかり忘れていた。ご両親にご挨拶をして満足していたけれど、貴博さんにはお兄さんがいたのよね。
 都合をつけて、私も貴博さんに兄と姉を紹介しよう。最初があんなだったから、ちょっと印象が悪そうだけど。
 裏門へたどり着き、そこから中へと入ると、目の前に頑丈そうな壁が見えた。そういえば、ここには母屋と離れがあると言う話だったから、ここは離れの壁なのだろう。
 貴博さんは今の部屋に引っ越す前は離れに住んでいたというから、離れの近くにある倉庫に荷物を収めているのだろうと思っていたのに。
 経年変化を感じさせるけれど、それでも白い漆喰の壁を見つめていると、貴博さんに呼ばれた。
「真白、こっち」
 貴博さんは建物の角を曲がったところで、手招きして私を呼んでいた。そちらにいくと、どうやらこの建物が離れではなく、貴博さんが言っていた倉庫であることが分かった。
 いや、これは倉庫ってより蔵と言った方が適切ではないですか?
 入口に回ると、大きめの開き戸があり、貴博さんは南京錠を開けていた。
「この中だよ」
 貴博さんが中へ入ったので、私も続けて入った。中は外よりもひんやりしていて、ぶるりと震える。
 入口を開けているから明るいけれど、中は電気がついていないのもあり、薄暗かった。
「電気をつけるからちょっと待って」
「はい」
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