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テンプテーション【完結】
第5章 幸せの誘惑(完)
 貴博さんは入口横のスイッチに手を伸ばしたまま、こちらを見ていた。
「それとも」
 貴博さんの横に立っていた私は、急に顔が近づいて来たので驚いてちょっと後退したら、不服そうに唇を尖らされた。
「扉を閉めて、ここでやろうか?」
「な、なに言ってるんですかっ!」
「ここなら暗いから、真白の要望に応えられるなと思ったんだけど、駄目かな?」
「いいとか駄目とか以前に、どうしてそういう発想が出てくるんですかっ!」
「冗談だったのに」
「…………」
 私がいいって言ったらどうしてたんだろう。
 怖いから考えないようにしよう。
「それで、俺の荷物は上の階にあるんだ」
「え、この蔵って二階建てなんですかっ?」
「かなり古いけど、二階建てなんだよ」
 ようやく電気を付けてくれ、中が見えるようになった。
 蔵の中は天井まで届くスチールラックが並べられていて、そこに箱やプラスチックの衣装ケースが所狭しと置かれていた。中を見ると、確かに蔵というより倉庫っぽい。
「少し空いてる場所ができてるから、真白の荷物をここに一時退避させてもいいのか」
「そうですね、それでもいいかも」
 引っ越しをするために部屋の解約を依頼するために連絡をしたら、もう少し早く退去できませんかと言われたのを思いだした。
「来週の土曜日に引っ越しができないか、調整するか」
「そうですね」
 移動を二回させることになるけど、それは仕方がないかも。

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